ビジネスモデル構築を目指せ

 三月十八日、H22地価公示が公表された。地価の下落現象に歯止めが掛からないだけでなく、都市圏域と地方圏域との地価格差も拡大の一途を辿っているようだ。 特に地方圏域商業地は取引市場の停滞著しく、散発的に発生する取引事例がどこまで実態を反映しているのか、的確に把握し難い状況にあるともいえる。




 デフレ現象が収まるまで地価の下落は止まらないだろうし、地方圏域の地価は地方経済の自立活性化が認められるまでは底値探りが続くのであろう。このあたりは多くの解説が発表されている。地方圏域商業地の地価については、中心商業地も近隣型商業地も商店街の体をなさないところが増えているから、周辺住宅地地価との逆転現象がぼちぼち観られるようになってきている。 あからさまな逆転は見えないにしても、極端な取引停滞現象が現れている。 戸建住宅地はそれなりの安定があるし、マンション等用地も一応の水準を維持している。 しかし、店舗経営がままならず賃借人も現れない小規模商業地は先行きが全く不透明な状況にある。

 そのような不動産市場だから、不動産鑑定評価についても悲観論や逆風状況の言上げばかりだけれど、嘆いてばかりいても仕方がないのである。 先日、地元会のリーダーのひとりY氏と話す機会があった。 彼は「鑑定評価は何でこんな状態になったのでしょうね。」と言う。 茫猿は「鑑定評価書というものが真の需要に応えてこなかった。応えようとしてこなかったのではないか。」と答えた。 鑑定評価の必要性とか需要について建前論は綺麗だが、その実態は稟議書の熨斗に過ぎなかったのではなかろうか。

 しかもそれは官公需民需を問わないのである。このことは近くは不動産の証券化に伴う関連鑑定評価業者の行儀の悪さなどにも見られたことである。 業界は不動産登記済証書に添付されて鑑定評価書が流通するような仕組みの構築を目指さなかったし、格付け機関ほどの信頼を得る努力も重ねてこなかった。 自らの仲間を切り捨てる自治自浄も、自らに血の滲むような努力も課してこなかった。 それでも十分な収入とそれなりの社会的地位を得ることが出来ていた。 それは、一面とても幸せなことだったが、そんな幸せが長く続くわけもないから、地価下落が長引けば鑑定評価書という熨斗紙も不要となってきたと言えるのではなかろうか。

 幸せな時代を過ごして逃げ切ったといわれる世代に属する一人としては、内心忸怩たるものがある。 もう七年も前になるが、地元会25周年記念式典の祝宴挨拶でこう述べた。『鑑定評価冬の時代と云われて久しいが、不動産が無くなった訳ではない。 不動産がある限り、そこで起きる取引であれ賃貸であれ、評価と格付けは欠かせないことであり、その役割を担うものが必要とされる。』 この思いに今も変わりはない。 問題は、その評価とか格付けとか、コンサルであれアドバイスであれ、社会のニーズに応えるものであるか否かということだと考える。

 不動産が存在して、人がその生活と活動の基盤とする限りにおいて、専門家の客観的評価や有効活用への助言など様々な活躍の場は存在すると考えている。 人がいれば相続問題は発生するだろうし、企業が存在すればM&Aなどとカタカナを用いなくとも企業承継・売買などは起きるのである。 遊休地の利活用は民有地も公有地も同じことであるし、一時の勢いを失っている不動産の証券化も消え去るものではなかろう。 財務諸表のための価格調査も、今後その深みや精度を高めてゆくのであろう。

 70年代80年代に存在した金太郎飴的な業務需要は無くなり、多様で多彩な業務展開が求められる時代に入ったのであろう。 鑑定士も資格を得て開業した翌日から調査依頼が来たという時代は終わり、それぞれが専門得意分野を持つことが要求される時代に入ったと云える。 それは何も不動産鑑定士固有の現象ではなく、資格業界全般に云えることでもある。 同時に不動産情報の開示と共有化、鑑定評価書の全面開示とレビュー制度の確立などを改めて目指すことから始めなければならない時期にあると思うのである。

 そんな折りもおり、業界に一つの提案をする機会が有ったので、かねての持論を短くまとめてみた。 このレターは特に秘密にするものでもないし、数年前からすでに『鄙からの発信』サイトには形を変え表現を変えて掲載してきた事柄であるから、開示して斯界の批判を仰ごうと考える。

「地価情報の有効活用を目指すビジネスモデルの構築」

 取引価格情報開示制度に伴う取引事例悉皆調査が全国的に施行されて既に三年余が経過した現在こそ、それら調査結果の有効な利活用を目指す事業構築(ビジネスモデル)に、鑑定協会が着手すべき時期にあると考える。 もとより、当該調査結果情報は国民の資産であり一協会が恣意的に利用し得るものではない。 しかしながら、当該調査に従事する地価公示評価員が、より的確かつ精緻な取引情報を得るために日々努力を重ねていることもまた、論を待たない。

 それらの状況を踏まえた上で、内部的には地価公示にはじまる公的評価(公示、調査、相評、固評)について、それらのさらに的確かつ適切な均衡を図ること、ひいては鑑定評価全般の精度向上を目的とするスキームの構築を目指すものである。 さらにこのスキームは当該調査結果の利活用について、より一層の安全性確保を期するものでもある。

 外部的には、取引価格情報開示に鑑定協会としても公益事業として寄与することを目標とし、鑑定士の手による地価動向分析を行い、社会に有益な不動産情報を的確、適切、迅速に開示提供できるすることを目指すものである。

1.内部的利活用システムの構築
 閉鎖的かつ安全なネットワーク(REA-NET等)を活用して、取引価格情報並びに公的評価情報を迅速にかつ視覚的に鑑定協会会員に提供する。公的評価情報と取引価格情報の一元的管理は、公的評価のより的確な均衡等を実現する上で、有効なツールとなるものと考える。

2.一般社会への情報開示並びにビジネスモデルの構築
 このビジネスモデルは、取引価格情報の直截的開示を意味するものではなく、それは土地総合情報ライブラリーに委ねるものである。 鑑定協会が構築するビジネスモデルは、広汎かつ網羅的な不動産情報を統計学的手法等を駆使し、かつ不動産鑑定士のエリア分析を踏まえたタイムリーかつ有益な不動産情報として提供するものである。

 このビジネスモデルの当初は鑑定協会の公益事業的色彩が色濃いものであるが、分析ノウハウの向上、時系列データの蓄積と共に、市場の評価を得ることを目指すものである。 市場の評価を得ることが、ネット広告収入の増加をもたらし、ビジネスモデルとしての完成度を高めてゆくと考えるし、不動産鑑定への信頼度や認知度も高めてゆくと考える。 《以上、提言終わり》

 過去の成功体験の再現を望むのはあながち否定できないことであるが、業界を取り巻く客観状況が変わってしまったことを認識すれば、今一度市場に埋もれている需要を掘り起こすことが求められるだろうし、新しい需要を創ることも求められるのだろうと考える。 言うは易く行うは難しは承知の上であるが、何からか何処からか始めなければ、何も始まらないと考えるし、幾つかの失敗を重ねてゆくことが将来のために必要なのだとも考えている。 再度述べよう、取引情報の開示と共有化、評価情報の開示と共有化こそが、次の時代を切り開いてゆく大きな武器となるであろう。
[PR]
by bouen | 2010-03-21 06:49 | 茫猿の吠える日々


<< 時間と自己 蕾膨らむ >>