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Client Influence Problem

 Client Influence Problem とは「顧客の影響」という意味である。不動産鑑定評価を依頼する顧客から示される不適切な示唆、希望、時に強い要請が引き起こす諸問題というような意味であろう。




 Client Influence が、今、なぜ問題になるかと云えば、
去る8月2日の衆議院予算委員会において松野頼久議員(民主党)が「かんぽの宿売却に問題はなかったか。」と質問したのに対して、原口総務大臣は先に公表したガバナンス検証委員会の報告を引用して、売却価格決定に際して求めた鑑定評価に関連し、「当初内示額307億円が、一週間に2度の内示額提示が行われ、68%減額の98億円に変更された。」と答弁したのである。 ここでは依頼者である日本郵政が鑑定士側に何らかの影響力を行使したか否かが問われている。

 また、平成20年9月8日、鑑定協会は「証券化対象不動産の鑑定評価に対する信頼の確保・向上を目指して」と題する会長声明を発して、以下のように述べた。「関連記事
 本年6月17日、証券取引等監視委員会は、金融庁設置法第20条第1項に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社(プロスペクト・レジデンシャル投資法人の運用会社)への行政処分を行うよう勧告しました。

その内容は
(1)不適切な利益相反管理態勢
 ①不動産鑑定業者への不適切な働きかけ
 ②不適切な不動産鑑定業者選定プロセス
(2)不動産鑑定業者に対する不適切な資料提供に係る善管注意義務
となっています。

 ここでも、「不動産鑑定業者への不適切な働きかけ」がテーマのひとつとなっている。

 不動産鑑定評価は、依頼者から報酬を得て、依頼者の指定する不動産の鑑定評価を行い、その結果を書面で依頼者に報告する業務である。そこには、他の資格業務と同様に依頼者から大なり小なり何らかの希望、示唆、要請といった類の"働きかけ"を伴うことが避けられない。 当然のことであるが、いかなる働きかけがあったとしても、鑑定士は公正中立を守り的確な鑑定評価を行うことを、法的にも倫理的にも求められている。

 しかし、他の資格業務、例えば弁護士は法廷で相手方代理人や検察との公開論争が待っているし、判決というかたちでの裁判官の判断が待っている。公認会計士や税理士であれば、税務署や国税庁あるいは証券取引等監視委員会の査定、裁定等が待っている。

 それらに対するに不動産鑑定評価は、その結果について利害関係者が多数である場合が多いにも拘わらず、--公共用地の取得売却の為の評価、証券化不動産の評価等において、鑑定評価結果の影響は広範囲に及ぶ--、その依頼から評価書の納付、そして評価書の利用から生じる結果に至るまで、非公開で処理される場合が大半であり、関与鑑定士はおろか業務受託鑑定業者さえも公開されない。

 勿論のことであるが、公共関連の不動産鑑定評価依頼であれば、事後に会計検査や監査が待っているし、証券化等の場合でも監視委員会等の検査が待っている。
とはいえそこに、不明朗なあるいは不適切な働きかけが生じる余地は存在するし、同時に働きかけに消極的であるにしても応じざるを得ない場合も少なくない。 働きかけに応じなければ、次の業務獲得機会を失う場合も少なくなく、そこにはグレシャムの法則が働くとも云えるのである。

 働きかけに全く応じなければ「融通の利かない奴」と忌避され、十分に応じて依頼者の歓心をかえば不適切な鑑定評価結果となる危険性が高いのである。このあたりの微妙なさじ加減というものを抜きにして鑑定評価ビジネスを語ることは「綺麗事」に過ぎないとも云えるのである。

 茫猿は2008/06の証券取引等監視委員会行政処分、並びに2010/08の国会質問を受けて鑑定協会は『抜本的改革』を断行し、社会の批判に応える義務があると考える。不作為は罪であり、不心得な一部業者に問題を限定あるいは矮小化することは、鑑定評価全体の将来にとって好ましくない結果を招くであろうと考える。

 前記二つの事案について鑑定協会会長声明は次のように述べる。
2008.9.8 会長声明」「証券化鑑定評価実施状況調査」においても、今後は、今回のケースを反映させたものに調査内容を充実させて実施し、当協会としても、遺漏なく、フォローアップを行うことにしております。

2010.8.3 会長声明」かんぽの宿問題について、当該鑑定評価書の審査を行うとともに、当該鑑定業者に再度のヒアリングを実施することにしております。

 などといった、その後のフォローアップ具体策にふれない、おざなりとも受け取られかねない声明を発して済む問題ではないと考える。 もっと重要なことは両声明が鑑定協会会員宛とも受け取れるものであり、社会に対して鑑定協会の改善への強い意欲、具体的改善策をアピールするものとはなっていないことである。10/08声明は会員宛であり、08/06声明は宛先が記されていないが、末尾には「会員各位のご支援、ご協力をお願いしたします。」と結ばれている。

 今、最も重要なことは「鑑定協会の具体的で明確な改善策」を、自主的にかつ自律性を高めるものとして一般社会へアピールすることであり、その具体策の実施によって「不動産鑑定士への社会の信頼」を回復することであろうと考える。同時に実効性の認められる具体的施策の公表と実施こそが鑑定評価の需要回復にもつながると考える。

 そこで筆者は鑑定協会執行部に「Rea Review」の実施を提案するものである。
「Rea Review 」の詳細については、次号記事に掲載します。


COMMENT:
AUTHOR: 清水千弘・麗澤大学
DATE: 08/15/2010 07:53:32 AM
 先生のご指摘の通り,最も大切なのは鑑定協会が自主規制をしっかりとやっていくことで,市場の信頼を獲得していくことです.
 証券化不動産のモニタリング制度を設計しているときに,国の関与は少なくし,鑑定協会主導の制度設計をしようとしましたが,実現できませんでした.

 費用がかかりすぎるということですが,費用がかかりすぎる制度を鑑定協会が作ろうとしてしまったことが問題だったのです.
 自主規制の在り方には,いろいろな方法があったはずです.
英国では,カースバーグ委員会という第三者機関を作り,鑑定士以外の方が徹底的な議論をして,業界のあるべき姿を導きました.

 その中心となったのが,英国のレディング大学のNeil Crosby教授です.古くからの友人で,6月にミラノの学会で会ったときに,日本はなぜ自主規制をしなかったのか.国が主導して規制しているのか.そのことが,業界の未成熟さを示しているのではないかというコメントをもらいました.

 業界の問題を業界の人間が中心となって議論していては,何の解決にもなりません.審議会の鑑定評価部会もしかりです.
 問題の中心になった方が,審議会や委員会で議論していることに,金融庁が怒っていたことがありますが,いまだにその体質は変わっていません.しっかりとした議論を外部者にさせて,それを受け止めて業界として対応していくことが,何よりも大切だと思っています.これは,一事が万事で,多くの問題に共通に発生しています.鑑定協会のしっかりとした対応を期待します.
by bouen | 2010-08-15 02:10 | 茫猿の吠える日々


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