戦略と戦術

 鑑定評価に関して、なかでも新スキームについて、語り続けることに些か疲れたというのが正直なところである。語り倦ねたと云うのが正しいのかもしれない。ただ、斯様な云い方をすれば己のみが正しいと主張するように受け止められかねないが、それは違うのである。茫猿が倦んでいるのは、「暖簾に腕押し、柳に風、闇夜に遠吠え」だからである。それはさておき、述べておかねばならないことがある。「戦略と戦術」についてである。



 ここで戦略とは「strategy」のことであり、全体の作戦計画を云う。対して戦術は「tactics」のことであり個々の目的を達成するための方法を指すものである。茫猿は新スキームに関して、鑑定協会が有効な戦略を持たず、戦術面においても意思統一が希薄で優先順位すら決めかねているのを惜しむのである。

 先号記事でT理事の理事会報告を掲載したが、H18.1.17理事会の議題は、(1)懲戒処分『諾』、(2)役員選挙の一部改正『継続』、(3)個人情報保護法漏洩保険手続き『継続』と続き、新スキーム関連は(4)その他の報告事項の ⑩番目に新スキームアンケート調査11月回収率が、全国平均で約25%であったと報告されるのみである。

 この報告に関して特段の質問も議論も無かったようである。新スキームに関して様々な受け留め方があろうと思うが、「鑑定評価の最も大事な基盤の一つである取引事例収集の将来を左右する事柄」であるという捉え方にさほどの異論は無かろうと思われる。
そして、今の時期は次の平成18年度において新スキームがどのように継続し或いは拡大充実してゆくかを決定する重要な時期である。にも拘わらず議論にならない、理事役員諸氏から何の質問も発せられないというのが不思議なのである。

 新スキーム問題は個人情報保護ガイドラインと併せて、鑑定協会の課題優先順位・第一位であろうと考える。少なくとも理事会においては、その動向を常に注目し、進むべき方向を常に模索すべき課題であろうと考える。
 にも拘わらず無関心にしか見えないのである。

 では、新スキームは順調に推移し、現時点で課題は無いのかといえば、課題山積であろうと考えるのに、理事会ではこの問題に関して無風なのである。
課題1.新スキームの全国展開完了の時期はいつか。
課題2.全国展開を阻害する要因は何であるか、その解決策は。
課題3.資料の有効な利活用のための環境整備は何か。
課題4.個保法ガイドラインに対応する必要な措置施策は何か。
 ざっと考えても、これらの疑問が生じてくるのであるが、理事会は無風である。彼等は関心がないのか、状況を知らされていないのか、それとも状況を知ろうとしないのか。会長以下理事役員諸氏の問題認識の無さ加減、優先順位を考えるという戦略性の無さ加減を露呈するに過ぎないのか。或いは「知らしむべからず、拠らしむべし」という戦術なのだろうか、茫猿は倦むのである。

 では何が問題なのかと云えば、新スキームの骨格を形成する「取引価格情報の開示」は、「規制改革・民間開放推進三カ年計画・04.03.19閣議決定」において、重点計画と定められた項目の一つである。昨今、BSE対策で話題の閣議決定事項なのである。不知の方々の為に、あえてこの閣議決定を再録してみる。

「規制改革・民間開放推進三カ年計画・04.03.19閣議決定」
『取引価格情報の開示について (所管:国交省 土地情報課)』
(14)不動産取引価格情報の開示[重点・住宅1(1)(国土交通省、法務省)]
 正確な取引価格情報の提供は、市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るために早急に実現しなければならない重要な政策課題であり、このような制度を、個人情報等の保護に対する国民意識にも配慮しつつ構築し、さらに充実していくためには、幅広い国民の理解が得られるよう、実施上の課題も含めて、実績を通じて検証していく必要がある。このため、以下の施策を講ずる。

a 国土交通省は、法務省と連携し、現行制度の枠組みを活用して、取引当事者の協力により取引価格等の調査を行い、国民に提供するための仕組みを構築する。(平成16年度措置・国土交通省)

b 上記の仕組みに基づき、取引当事者の協力により取引価格情報の調査・提供を行う。(平成17年度措置・国土交通省)

c 価格情報の正確さが確保されること、個人情報保護の観点から情報提供方法に関する技術的側面が解決されること等を実績を通じて検証し、この結果等を踏まえ、取引価格情報提供制度の法制化を目標に安定的な制度の在り方について検討し、結論を得る。(平成18年度検討、結論・国土交通省)

 平成18年度は三カ年計画の最終年度なのである。であるが、新スキームの全国展開は覚束ない状況にあるし、鑑定士及び鑑定協会側の準備状況も万端整っているとは云えない状況にある。自らの業容の基盤を構成する事項について、あまりにも他人任せ(霞ヶ関&虎ノ門)が過ぎると思うのである。

 戦略的に云えば、新スキームの全国的拡大が本当に最適の選択か否か、吟味する必要はないのであろうか。確かな事例の安定的確保が最優先課題であろう。しかしそれ以前にそれら戦略について合意は形成されているのであろうか。自明のこととしていないだろうか。負担すべき経費、役務について議論を尽くしたかどうか、公示評価員を希望しなければよかろうで終わらせていないだろうか。

 一部担当役員氏を除けば会長をはじめとする執行部の意欲も見えてこないし、地方の意向も意欲も見えてこない。たまに話題に上れば、戦術的な細部の事項に終始する。新スキームの全国展開は本当に望ましいことかどうか、鑑定評価の生命線ともいえる評価基礎資料(取引事例)の収集を地価公示・就中・取引価格情報開示調査に全面的に委ねてしまうことが佳いのであろうか。鑑定士の主体性とか独自性とか(独立性も含めて)、鑑定士は何処へ往くのであろうか。(逝くのかもしれない。)
 その意味からは地価公示のみに鑑定評価の基盤を全面的に委ねる危険性も指摘できるのではなかろうか。

 鑑定士は、法務省デジタルデータの提供は求めるべきであろう。
その由縁は 取引情報開示に資するものであり、地価公示の精緻化に資するものであり、公益性を有する者であると考える。(考えざるを得ないというのが本音である。)
しかし、提供を受けた法務省データの利活用については、可能な限り我々の自助努力、自己資金によるという原則を貫けないものであろうか。個利己略の誹りは免れ得ないかもしれないが、それを少しでも避ける為に、でき得れば社会の是認を得る為に何を為すべきかを考えねばならない。

個人情報保護法という事例収集には逆風が吹いている折からではあるが、またしても、新スキームという神風に頼り切るのは危険ではなかろうか。無理なことを言っているのではない。戦略として戦術の優先順位の問題である。自助ありき、自主ありき、その後に公的支援、委託事業等の手段方法は遠慮無く活用させて頂くということである。優先順位の問題なのであり、先に公的支援を期待し求めるという姿勢は如何かというのである。

新スキームに関して云えば、法務省データの提供が為されれば、鑑定協会と士協会の手で、ネットワークを整備し、事例を収集し、開示制度に提供し、地価公示の精緻化に努めるという大前提、大原則を確立すべきではなかろうか。その上で、公的委託事業、助成、補助を求めるべきであろうし活用すべきであろう。
戦略も戦術もアナタ任せでは我々の将来は余りにも暗いと思うのである。
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by bouen | 2006-02-11 12:06 | 不動産鑑定


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