論考紹介

 紹介するのは、「不動産取引価格のインターネット公開」と題する論考である。筆者は不動産鑑定士・山田毅氏[㈱日本システム評価研究所]である。2006.07.28付けにて氏の主宰するサイトにアップされている。 新スキーム関する一連の出来事が手際よくまとめてあり、是非とも一読されることをお勧めする。



 「不動産取引価格のインターネット公開

・インターネット公開のスタート
 事業のスタートするまでの経緯が過不足なくまとめられている。

・公開後の印象
 スタート直後とは云え物足りないという印象を率直に語っている。同時にこのようなコメントもある。「ネットワーク化の流れから遅れた不動産鑑定業界は、公開制度の新スキームを支えるネットワーク環境の開発プラットホーム(SSL-VPN,RDBオラクル、データファイルの統一フォーマット)を活用して、協会本部と各地方の鑑定士会を結ぶ「REA-NET」を構築し、各評価員レベルでの1次~5次データまでの閲覧やASP方式のグループウエアを活用した情報共有強化を図る重層的システムの実現を検討しているようだ。」

 ようだではなく、まさにその通りなのであるが、筆者山田氏の在住する福岡県ではH18年度より新スキーム調査が開始されていることであり、より深い関心とさらなる御支援を期待するのである。

・公開をめぐる賛否両論
・今後の展望など
 今後の展開に関して筆者山田氏は「公開制度の推進者である国土交通省が法務省の登記移動データと連携することで行政同士がリンクされ、取引のナマデータが行政庁間を横断してオンラインで流れるシステムが出来上がったことの持つ意味は関係業界にとって重い。」と評する。当該事業の本質を突いている見解であるといえよう。

 さて新スキームに直面する鑑定士に対して山田氏はこう述べるのである。「各地方士会単位で取引情報を後生大事にバリアを巡らせ抱え込むセクト主義的な時代は確実に遠のいていっているのではないだろうか・・」
さらにまたこう述べる。「いま不動産鑑定業界は、危ない大きな曲がり角をまわりつつあり、百年に一度あるかないかの大きな曲がり角だ。そしてまだ、曲がりつつあるところだから、その曲がりの全貌は見えない。しかし、あと何年かしたときに、その変化が見えてくる」

 茫猿が一昨年来述べてきたこともこの一事に尽きると思う。鑑定評価のデジタル化&ネットワーク化という視点からすれば、今は大きな転換点であり、この転換がもたらすものはしばらく先にならないと見えないであろうと思う。

 ※関連過去記事:(効率的)集中と、(効果的)分散(2006-05-12)
『さて鑑定業界にとって今は、稀に見る変化の時だと考えます。取引事例という鑑定評価にとってある種生命線ともいえるデータを獲得する手続き方法が大きく変化しようとしている時であり、その変化は鑑定評価自体にも大きく影響するであろうと考えられます。
 連続する変化は傾向がつかみ易く、変化に対応するのも比較的容易であろうと考えられます。
しかし連続性のない変化や突然の変化はその方向性が予測し難く、対応も困難であろうと考えられます。その意味では予測できない変化に柔軟に対応できるものこそが優れものと云えるのだと考えられます。』

 ※関連過去記事:IT化の光と影(2006-05-23 )
 『 巨大企業や官公庁が提供するGISインフラに、long tail的に不動産情報がひもづく流れが加速すれば、専門家が情報を握ることで持っていた優位性はあっさりと消えるだろうと思うのであるし、既に消え去りつつあると思うのである。
IT化による情報の低価格化迅速化効率化などは結果としてサービス対価の低廉化をもたらす、現にその状況に入っているのではないだろうか。
大量処理の評価業務分野では、地価公示地価調査をはじめ、固評標宅・固評路線価・相評路線価、それに加えて今度の取引価格情報がもたらす、いわばアルゴリズムを中心とする人為的判断を排除した評価システムが稼働しつつあるのだろうし、既に大量のデータと様々な解析手法の駆使による新しいサービス提供が生まれつつあるのだろうと思う。

 我々の戦略の方向性は、将来的には外部公開というものも視野に入れながら、詳細な不動産情報を大量に流通させ、その上で個別評価事案の特殊性をどう精緻化させていくかということが問われているのではなかろうか。
 とにかく全面開示・全面共有に主眼を置く、その上でその成果や分析を外部発信していくスキームを整備して、専門家集団としてのブランディングを図ってゆくことが求められる。個別精緻化に限らず大量データ処理に関わるノウハウやツール開発も今や遅きに過ぎているのかもしれない。

 とは云うものの、状況は未だ混沌としている。我々鑑定士がどの方向に向かおうとするのか、そのコンセンサスはおろか議論すら行われていない。
何処かで行われているのかもしれないが、茫猿の知るところではない。
IT化の蓋を開けると云うことは、パンドラの箱に似ているのではなかろうか。
そんな気がしてならないのである。』

 ※関連過去記事:【茫猿遠吠・・事例収集新スキーム・・04.08.27】
『 誤解の無いように付け加えますが、デジタル化だけが全てではありません。
しかし、デジタル化、ネットワーク化が世間の大勢である以上、その動きに背を向けていることは許されないでしょう。 取引事例だけに限りませんが、取引事例に関してだけでも、地図システムを採用し、地形図についてもデジタル化入力を行い、さらには事例地のデジタル写真貼付などが要求される時期は目前に迫っていることであろうと予測します。

 それらについて不用意に取り組めば、単にコスト増を招くだけでしょう。
フレームとかスキームと云う様なカタカナ語に惑わされず、全体構造・構図を正しく柔軟に描くことから始めなければなりません。同時に、どのような事態にも対応できるような柔軟な基盤整備(情報ネットワーク基盤の整備)も必須でありましょう。

 そういった観点からすれば、全国一斉に新スキーム着手は危険が大きいと云えましょう。初年度はパイロット地区(士協会)を指定して、実験と検証作業を行うべきでしょう。また、このパイロット作業は可能な限り早く着手すべきであろうと考えます。パイロット作業によって実際業務上の問題点洗い出しが可能でしょうし、全国導入へ向けたスキーム・フレームの改良も可能だと考えるからです。』
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by bouen | 2006-08-02 03:30 | 不動産鑑定


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