硫黄島&一分

 年末に「硫黄島からの手紙」を観て、年始に「武士の一分」を観た。つくづくシニア映画ファンにとっては佳い時代だと思う。映画館は明るく清潔で、学生時代の名画座のような便所の臭いも煙草の煙も無い。全席指定で全席入れ替え制だし、複数スクリーン制だから目当ての映画が満席ならば二番目の目当て映画を観ればよい。



 何と云ったって、シニア割引千円は有り難い。平日の午後ゆったりと映画を観て、上映時間までの暇つぶしにはスタバかタリーズの隅で文庫本を広げていればよい。映画+文庫本+カフェラテ+キャラメルコーン=弐千円±αで三時間から四時間が過ごせるのだ。これを豊かで幸せで文化的などと云っているから「駆け込み逃げ込み派」などと突っ込まれるのであろう。
 親や祖父母の世代は、かろうじて中間層の(中産とか中流階層などとは口が裂けても云えない持ち家というだけの痩せた身代である)片隅を占めているが、それとてもいつまで続くことやら。まして団塊ジュニア世代にしてみれば、こんなプチブル小市民的感想は唾棄すべきシロモノであるのかもしれない。

 そんな社会時評はさておいて、映画「硫黄島からの手紙」である。栗林中将を演じた渡辺謙は全体に押さえた演技であり、いつもの食傷するような派手な見栄切りがなくて好ましく観ていた。死に場所が無くなる獅童も役柄にハマッテいたし、バロン西を演じた伊原剛志はとても好感のもてる爽やかさであった、役者冥利に尽きる配役だったと云えるだろう。でもバロン西とロス五輪といっても判る人が減ってしまったのだろうと余計なことをおもう。

 残念と云うよりは、もうそういった役者がいないのであろうと思えたのは「パン屋を演じた二宮和也」である。狂言回しの一兵卒を演じ、故郷に残した身重の妻を案じるという重要な役柄であるのだが、梅干し、みそ汁、タクアンといった戦前の庶民の感じが薄いのである。渥美清や関敬六では浅草過ぎるのであれば、若い頃の犬塚博かフランキー堺といったところであろうか。

 重いテーマを掲げる映画であるが、二部作の片方「父親たちの星条旗」を観ていたから、映画全体を柔らかく受けとめることができた。この映画を観たしばらく後に、TVタックルだったか、日曜ワイドだったかで声高に憲法改正問題や自衛隊海外派遣問題をアジルTV番組をみた時に吐き気がした。

 安倍、中川、麻生、石破などの戦後ジュニア政治家達の何ともしまらない軽さをとても情け無く思う。何よりも彼等を選良として国会に送っている地元の人々が何を期待しているのかが不思議である。 この点はよそのことは云えないので、茫猿の身の回り岐阜県選挙区でも、棚橋泰文、野田聖子、金子一義、武藤容治、古屋圭司と全員が二代目・三代目世襲政治家である。

 一人はコスタリカ方式の相方(落選中)の自民党復党を拒んでおり、二人は自民党幹事長に最敬礼して復党を果たした。それでも支持者達は天下国家よりも岐阜県よりも俺らが選挙区よりも、俺らが後援会を見ててくれる代議士を選ぶのであろうか。先生の父親や祖父の代からのファンを自称する人々にとっては、ファンであることそのものが大事なのであろう。家の子郎党とか家重代とか番頭と云った意識が全てに優先するのであろう。

 話がブレテしまうが、彼等の総じてが批判する戦後教育である。その戦後教育の結果が彼等や小泉氏の選出母体であり、劇場型政治の観客であり支持層であるというパラドクスを彼等自身はどのように評価するのであろうか。

田原拓治教授の硫黄島からの手紙・映画評

・・・・・・・・・・・  さて話を戻そう  ・・・・・・・・・・・・

e0076374_1413245.jpg 【武士の一分】はそんなに期待して観たわけではない。キムタクの演技を期待したわけではないし、美人の誉れ高い壇れいに会いたかった訳でもない。
 藤沢周平の「盲目剣谺(コダマ)返し」が記す剣の極意とラストの一節が、山田洋次監督の手でどのように映像化されているかを確認したかったのである。e0076374_961959.jpg

【倶ニ死スルヲ以テ、心ト為ス。勝ハソノ中ニ在リ。 必至スナワチ生クルナリ】

【縁先から吹き込む風は、若葉の匂いを運んでくる。徳平は家の横で薪を割っているらしく、その音と時おりくしゃみの音が聞こえた。加世の泣き声は号泣に変わった。
さまざまな音を聞きながら新之丞は茶を啜っている。】

 だけど佳かった。木村拓哉の演技力は幾つかの映画批評で絶賛されているが、茫猿もそれを確認した。眼の演技の素晴らしさ、盲人としての剣技もリアルだと思う。打ち込みを外されて石に躓き負けを意識したのちに、新之丞が倶ニ死スルと覚悟を決めた上での剣技については振り付け師のモノかもしれないが、演技力も与ってのことである。壇れいさんは気品ある美しさだし、板東三津五郎の敵役としての渋さは流石である。

 とても得をしたのが笹野高史である。寅さんでは軽妙なチョイ役が多かったし、釣りバカでは長らく社長車運転手を勤めているのに、ここでは篤実な老中間を演じて、彼以上のハマリ役はいなかろうと思える好演である。今年のブルーリボン助演男優賞は彼で決まりであろう。DVDを購入しておきたいなと思える映画である。いずれにしても、藤沢周平&山田洋次三部作(たそがれ清兵衛隠し剣鬼の爪武士の一分)はDVD保存版を購入しておきたい。

 原作を読んでいたせいもあろうが、山田監督も藤沢原作も老僕・笹野高史も十分に泣かせてくれる。そして涙を流すことによるカタルシスをたっぷりと味あわせてくれる。
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by bouen | 2007-01-07 07:07 | 只管打座の日々


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