新スキームの費用負担と士協会自治

 新スキーム(取引価格情報調査開示事業)事業は、2007年度から全国の地価公示及び地価調査実施区域を対象地域として拡大施行が検討されている。その事業実施に伴い全国の都道府県鑑定士協会に対して、鑑定協会から負担を求められる事業経費がある。岐阜県士協会筋の話によれば、当該事業経費概算額が「鑑定協会・新スキーム受入体制整備のための合同特別委員会」から1月末に全国の都道府県士協会宛に示された模様である。



 これは、2007年度の各士協会予算案を編成するに際してその積算基礎資料として必要なものであると同時に、各士協会にとっては経費負担に伴う資金捻出準備を始める必要もある。新スキームの実施に伴う一年間の負担経費概算額積算根拠は次の通りである。
A.調査照会票発送件数・・年間登記申請件数(小規模画地等を除く)
B.照会票郵送費・・(当初発送件数+照会票回収件数+その他)×郵送料
C.PDF作成費・・回収照会票を安全に管理するためのPDFファイル化。
D.USBキー使用料・・ネットワーク接続・確認キーの貸与料(公示評価員宛)

 以上のうち、Aはその年毎の景況等により変動するものであるが、ほぼ一定の趨勢値のなかにある。Bは従来方式の調査においても支出されてきた経費であり、実額的に大きな差異はないものである。Cについては、従来アナログ管理が為されてきた(回収照会票を紙で管理保存)士協会にとっては新規に負担が増えるものである。しかし、情報の質からして厳格に管理することが求められることを考慮すれば当然必要経費と考えねばなるまい。
 同様の観点からUSBキーの貸与費も現行スキームが地価公示フレームのなかで実施される諸般の事情を勘案すれば、将来はともかく現時点では当然経費と考えねばなるまい。

 発送件数をどのように想定するかは、地域的に、又は種類的に、或いは規模別にどのような対象を調査範囲とするかによって変動するものである。しかし、全国集計による発送件数(A)はおおよそ年間125万~150万件と見込まれ、経費総額は(B)2億円、(C)4千万円、(D)3千万円と見込まれる。合計すれば2億7千万円~3億円といったところであろうか。
 これを地価公示評価員約3千名で割ると一人当たり約10万円、鑑定協会会員6,100名で割れば約4万9千円である。また公示評価員一人当たりの調査担当件数は平均して年間130件±αと見込まれる。

 以上の資金的及び役務的負担を多いとみるか、当然とみるかは鑑定士各々の鑑定観、ひいては人生観に基因するところ大であろうから、言及はしない。
一つだけ云えることは、経費的には従来から負担してきたものが顕在化した部分が多くを占めるものであり、情報管理の安全性担保、評価のデジタル化、効率化精緻化といった側面を考えれば避けて通れない部分が多いと云えるし、異動情報の確認から発送、回収に至る多くの作業が効率化・デジタル化されることも評価されなければならない。
 また事業展開の経緯等からすれば、現段階では経費削減を追求するよりも事業を円滑に軌道に乗せることを優先すべきと考える。即ち経費削減により懸念される危険負担や事業遅延よりも、円滑な事業遂行を優先すべきと考えるのである。

 問題は、新スキームを「全国統一スタイルの鑑定協会主導事業」として眺めた場合の地域間における不均衡である。年間取引件数の発生そのものが全国都道府県において均衡を大きく欠いている。H17データによれば、東京都:約140千件、島根県:約9千件である。ところが会員1名当たりでみれば東京都は約60件(会員数約2400名)、島根県は約560件(会員数約16名)となる。因みに岐阜県では総件数約20千件、会員1名当たり約400件(会員数約50名)となる。

(注)年間の調査対象件数は総件数のうち回収済みデータ件数であることからから総件数の約1/3程度と見込まれる。もう一つ留意しておくべきというか見逃せないのは、都市圏域における地価公示をはじめとする「いわゆる公的評価」の会員一人当たり受託業務量は地方圏より相対的に少ないということである。ことはそう単純ではないということでもある。
 総じて云えることであるが、都市圏は予算額においても調査件数においても事業規模は大きいが、会員1名当たり或いは評価員1名当たりの負担は地方圏に比較すれば随分と軽いのである。

 これに対して地方圏は、確かに予算規模、事業規模は小さいが一人当たりの負担は都市圏と比較すれば格段に重いのである。さらに、現地調査に伴う負担は都市圏鑑定士の想像の埒外であろう。岐阜県飛騨地方や奥美濃地方の調査に伴う評価員の負担は随分と厳しいものがある。全国的にみても北海道の広さ、長崎県や鹿児島県の離島を考えれば事業遂行の困難さが今から思われるのである。この不均衡をどのように是正するか、或いは補完措置を講じるかがこれからの大きな課題であろう。同時にそういった不均衡が存在することを前提とすれば、事業遂行には画一性よりも多様性や柔軟性重視でありたいし、各士協会の自治とか自主性と云ったものにも十分な配慮を願いたいのである。

 そのような状況のなかで、「APPRAISAL OPINION」の記事では新スキームの全国展開に関して以下のように述べられている。これらの提唱を地方圏はどのように受けとめたらよいのだろうか、APPRAISAL OPINION氏の云う「最低限のメリットは全国の取引事例等の閲覧」、「本会の直営事業」化、「利便性を最も享受するのも東京圏」という言及をどう受けとめたらよいのであろうか。

 まさか「東京のための、都市圏のための新スキーム」などと言うつもりはなかろうと思うのだが。(社)日本不動産鑑定協会において東京会をはじめ埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫、福岡等都市圏の単位会九会の会員数は約45百名、残り38会の会員数は約15百名である。

 茫猿が吠え続けてきたのは、エリアで4倍を占めながら会員数で1/3であるが故に届かない声を届けるためである、でも届いていない。スタートもしていない新スキーム全国展開を前に鑑定協会の枢要な地位にある方の発言としては誤解を招きかねない言動であり、その真意を訝しく思うのである。 
 新スキーム並びに士協会ネットワーク構築の成否の鍵は、圧倒的多数を占める東京都士協会並びに都市圏士協会が地方圏士協会に一歩譲って頂けるか否かに懸っていると茫猿は考えてきたし、機会ある毎に度々申し上げてきた。でも理解されていないし声が届いてもいない。だからまだスタートしてもいないのに「東京士協会が中心となって制度の再整備拡充をはかる」などという声が出てくるのであろう。

 東京都士協会がエンジンにならなければ何も動いてゆかないのは自明である。新スキーム関連問題は前述のように共同利用受益の高い都市圏と、調査費用と役務負担の高い地方圏の利害が先鋭に対立する問題である。だからこそ、自明であることをあえて声高に唱えて誤解を招いて欲しくないと考えるのだが、ご理解頂けるであろうか。

 さらに、費用負担を国等に請求すべきであると提唱されているが、この提唱は双刃の剣であることを指摘しておきたい。事業費を国交省等予算に求めると言うことは、事業の法制化と同じ意味を有するものであり、事業の国家管理につながることである。事業の法制化や国家管理が強化されれば何が起きるか、承知されない訳は無かろうと思うのであるが故に真意を訝るのである。

APPRAISAL OPINION」の07/02/01記事より
不動産鑑定士が協会に入会する最低限のメリットは全国の取引事例等の閲覧ができるからです。これが全くできなくなれば、不動産鑑定協会に入会する人はいなくなるでありましょう。
取引事例収集及び閲覧の事業を全国的なネットワークとする為、本会の直営事業とし、費用・作業の負担の均衡化・適正化等を図るべく、東京士協会が中心となって制度の再整備拡充をはかります。

不動産取引の件数及び取引金額の最大、最高のエリアは圧倒的に東京都及び首都圏内であり、新スキームの全国展開に従って、その利便性を最も享受するのも東京圏であるからです。


『事業の法制化、事業経費の請求』は、何をもたらすか(茫猿注書き)
 事業の法制化や事業経費の国への請求(事業経費予算化)は何をもたらすかと云えば、事業の全面的国家管理を招くのである。即ち、新スキーム全データの版権は国に属し、国が公開するまでは守秘の範疇におかれるものである。
 新スキームの現況は、不動産鑑定士が地価公示の枠組みのなかで取引価格情報開示事業に鑑定協会を挙げて協力し、その上で鑑定協会会長が照会文書で「共同利活用」を表明しているのである。それが全面的に国家事業化されれば「このような表明」はおよそ無理となるであろう。
 「カネを出せ、データは利用させろ」とは、要するに負んぶに抱っこの親方日の丸主義と何ら相違ないと云うことである。不動産鑑定士は鑑定士である前に市民である。自らを助すける努力無くして、規制緩和の波涛が高いWEB.2時代に生き抜ける道などないのである。
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by bouen | 2007-02-01 15:01 | 不動産鑑定


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