不動産オークション

 業界の後輩でもある知友から一本のカセットテープと手紙が送られてきました。テープは不動産オークション事業のパイオニアである「株式会社アイディーユー 代表取締役・池添吉則氏」の講演テープでした。




 届いた手紙の抜粋です。
茫猿様 何かとお世話になっております。
締め切りの連続で、思いを巡らす時間もあまりございません。 そんな中でも、車中で講演テープなどを聴いたりしながら、イマジネーションを膨らませ、少しでもポテンシャルを維持しようと、自分なりにささやかな努力をしようとしております。資金も潤沢ではないので、時々の経済分析等は新しいものを聴きますが、そうでないものは少し時間のたった(安くなった)講演テープなども買って聴く事もあります。少し古いテープとはいえ、中には刺激の強いものもあり、今後の不動産鑑定業界・不動産業界を考えるに貴重な内容のものもありました。
 ということで、今回お送りするものは最新の情報ではありませんが(昨年収録)、自分は最近聞いたものです。やや古くてもかなり考えさせられた内容であり、是非、茫猿さんにも聴いてもらい、感想などを聴かせていただければと思った次第です。

自分が強く感じた点は、
1.「創業者の意志の力の強さ」(反面自分が情けなくもありますが)
2.鑑定士が大前提としている、不完全・閉鎖的な不動産市場を「市場構造ごと」変えてしまおうとしている人間がいる(しかも、そうなりそうだ。このままでは、 鑑定士は本当に存在価値がなくなるのか。)という事=やや漠然とした感想ですが・・・まずは、感じた点です。
 以前、茫猿さんから聞いたように思う「点の価格ではなく、価格の正規分布を提示する」というような話しも出てきました。また、つい最近聞いた所では、多くの仲介業者が集団でオークションに参画する事になったとか。
 茫猿さんは、既にだいたいはご存知の内容であろうとは思います。が、直接その創業者の肉声を聞くと、また、ちょっと違った感想も持たれるのではないでしょうか。そのような事を期待しまして、お送りいたします。 (K.A 拝)


 先ずはサイト上からではあるがK.A大兄にお礼を伝えたい。自らが興味を持ったり評価する情報を他者に教え伝えるというのは、なかなかにできないことである。「どのように受け取られるだろうか?」、「そんなことは、先刻承知と言われないだろうか?」、「鼻先であしらわれないだろうか?」などと逡巡するものである。
 茫猿にしてからが、多くの情報を『鄙からの発信』上で公開している。公開はしているが特定の誰かを名指しして公開しているわけではない。つまり相手先を指定したメール送信などでなく、虚空に吠えているわけであり、知りたければご自由にどうぞという公開であり、公開していることを積極的に特定の誰彼に伝えているわけではない。せいぜい、名詞の隅や賀状の隅にURLを書く程度である。だから、積極的に情報を提供して頂いたK.A氏に掛け値なく感謝するのである。

 実は、不動産オークションについては「Yahoo!オークション:不動産」の存在をいつ頃からか記憶はないが知っていた。知ってはいたがネット・オークションに不動産が何処まで馴染むだろうかと懐疑的だったのも事実である。池添氏の講演テープを聞いてから改めてiNetを検索したら、既に幾つかのオークションサイトが立ち上がっている。

マザーズオークション  (株式会社アイディーユー
Yahoo!オークション 不動産 (株式会社ベストレード
船井不動産ネットオークション  (船井財産コンサルタンツ

不動産オークションを展開する上での参入障壁は宅建業法であろう。それをどのようにクリアしてゆくかが不動産オークション事業展開の上でのポイントなのであろう。池添氏の講演によれば、「これまで日本には、裁判所による競売しか不動産オークションに相当するものは存在しませんでした。しかし1999年民間企業による不動産オークションが解禁となり、その後複数の企業から不動産オークションが誕生しています。」と云う。

 さらに「2003年12月、経営再建中のダイア建設の物件がアイディーユーのマザーズオークションに出展され人気を集めました。今後も不動産業界からはもちろん、ネット系のベンチャーなど様々な企業が参入することが予想されます。」という。03/12から04/01にかけての、ダイア建設リバイバルオークションでは、約1200件の区分所有マンションや一棟収益物件がオークションに出展された。その結果は、入札総数15000件、落札件数1100件、落札率89%、落札金額91億円(出展件数1229件:落札最低売却価格計75億円)という成果を挙げることにより不動産iNetオークションをブレイクさせたのである。

 池添氏が主宰するマザーズ・オークションが目指しているのは、(1)情報公開、(2)信頼性の高いデューディリジェンス、(3)安全・効率的なエスクローサービスであると云う。いずれも鑑定評価や不動産鑑定士と無縁な分野ではないが、自らのネットワークさえも未だ構築できていない鑑定業界にとっては高嶺の花というか縁なき世界と云えるのであろう。
 iNetオークションに自治体が参加する時代であるから、不動産公売にも参加を企画する自治体が現れている。物件としての均質性が高い区分所有マンションはiNet不動産オークションへの出展物件としての適格性が高かろうし、一棟収益物件は購入者を広く全国から募集する意味からiNetの適格性が高いのであろう。

 不動産鑑定士が直接、間接的に不動産オークション市場を係わりを持ってゆこうとするのは先端を歩む個々の鑑定士の業態の問題であり、ここで論評を加えるものではない。『鄙からの発信』のポジションからすれば、鑑定協会や鑑定士協会は不動産オークション市場の展開から何を学ぶかということである。
それは、(一)過去には秘匿されていたり特別視されていた情報がどんどん公開される時代になったということである。
(二)しかも公開に伴う費用が著しく低減化され、開示情報が精緻化ビジュアル化しつつあるということである。
(三)このようにして無償で公開される精緻な不動産情報と鑑定評価をどのようにリンクするかが問われている。

 東京を中心にというか、東京の状況が先端であるのだが、既に区分所有マンションの売買情報はiNet市場に溢れているのであり、従来型の鑑定評価が持っていた存在価値そのものが激変しているのである。このiNetの波は他の不動産分野に波及してゆくのは当然の帰結なのであり、今さら問題にするには及ばないのであろう。「土地総合情報システム」、「REINS Market Information」をはじめとして様々な価格情報が溢れているのであり、それらはさらに開示の度合いを高めてゆくのである。

 K.A氏も手紙の中で「不完全・閉鎖的な不動産市場を前提とする不動産鑑定評価の将来性」について疑問を示しておられますが、今や疑問などと云うものではなく、iNetに溢れる不動産情報を如何に上手く御してゆくか溺れないでいられるかという時代に入っているのではないでしょうか。

 我々の鑑定評価スキルは専門性が高く技術的到達度も高いと自尊していますが、実は高度な知識と豊富な経験と的確な判断力を駆使すると自称する職人的世界に安住するものでした。それはたった一度の筆記試験で専門家であると認定され、以後はその既得権益に安住し続けるものです。もちろんそれなりの研鑽を積んではいますしクライアント市場がそれなりの評価を行い淘汰を加えてゆきますが、国家試験の重みは大きくて滅多なことでは鑑定評価市場から排斥されることはありません。

iNetの世界、Web.2.0の世界は、そういった個人的アナログ的世界に安住する不動産鑑定士にコペルニクス的転回を迫るものと考えた方が理解しやすいと思われます。大量の精緻なデータがiNet市場に溢れる状況から何が生まれてくるか、「早い、安い、上手い(的確)」成果が溢れるのは自明でしょう。
 言い換えれば、熟練労務も特殊技能も必要としない「ヨシギュー、駅ソバ」的世界と、ミシュラン三つ星的世界の二極分化が避けられず、しかもその間をつないでゆく中間的世界はないのであり、仮にあったとしてもヨシギュー紛いかミシュラン紛いに過ぎないのである。

 さて、K.A氏はもう一つの問い掛けを茫猿に投げている。「創業者の意志の強さ」である。池添氏の講演を聞いていて思ったのは、「先ず潜在能力の高さ」である。氏が学卒後ミサワホームに勤め、そこで定期借地分譲を武器として全国トップセールスマンの地位を三年連続して維持したという。しかもその成績たるやダントツだったという。もうそれだけで常人ではないので脱帽である。

 次いで、現在の起業につながる日本アイ・ディー・ユーを98/10に設立し現在に至るまでの幸運の連続が云える。幸運と言われるのは氏にとって不満であろうし様々な幸運も氏の努力が招いたものであるのは事実であろう。だが、不動産オークションに進出して以後、同郷でもある北尾ソフトバンク社長の知遇を得たことが今に至る大きな支えであるのも事実のようである。
 熱く夢を語り、自らを騙し(茫猿独特の表現であり悪意はありません)自ら夢に酔うのでなければ、他者を騙すこともリードすることもできないのであるといえば「身も蓋も」なかろうか。ともあれ自ら描く夢に酔うだけでなく、その夢を持続させ実現に近づけてゆくというのは類い希なる才能なのであろう。
 それは「眼光紙背」記事の『ソフトバンク・孫正義氏、アスキー・西和彦氏、ラクテン・三木谷浩史氏、そしてライブドア・堀江貴文氏』4氏への短評にもつながると思うのである。池添氏が起事業タイプなのか、起企業タイプなのかは未だ判らないのであるけれど。

追補:鑑定評価との関連では、民間競売制度創設問題がある。
 平成19年6月22日閣議決定の「規制改革推進のための3か年計画」において、平成19年度内に、「平成17年12月に発足した「競売制度研究会」において、これまでの米国その他の諸外国における民間競売制度等についての基礎的な調査研究を踏まえ、わが国の民間競売制度の改善策として取り入れるべき点がないか、取り入れるべき点があるとすればどのような内容が考えられるかについて関係機関との緊密な連携の下に検討を行い、結論を得る。」とされた。

 鑑定協会は、「司法競売においても、非司法競売においても、また任意売却においても、担保物件の公正な売却価額の保証が必要であり、それが、国民の生活と経済の維持、向上につながるものと考える。」立場にある。

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by bouen | 2007-11-30 12:36 | 不動産鑑定


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