ある催事によせて

 とある催しのプロデューサーを務めている方からいただいたメールへの茫猿の返信を掲載します。この記事は返信メールに若干の加筆修正を行ったもので、原文そのままではございませんが、今の茫猿の関心事と申しましょうか、我々鄙の鑑定士に求められているであろうと考えることを綴ったものです。



 先ず前提条件として、私たちは企画する催事に参加する客層をどう捉えるかだと考えます。地方から全国へという発想もよいのですが、地方から地方へという発想も悪くないのではと思います、もちろん、「ひなびと」だけでなく「みやこびと」にも興味あるテーマが望ましいのは当然のことです。その意味で、賃貸利回りや定期借地権系のテーマは如何がなものでしょうか。それらについて私自身がよく判らないということもございますが、都市圏域に比較して、テーマの基礎となる商業系賃貸データが、時系列的にも面的にも、質・量ともに乏し過ぎはございませんか。

茫猿は斯様に考えるのです。
(一)過去には秘匿されていたり特別視されていた情報がどんどん公開される時代である。
(二)公開に伴う費用が著しく低廉化され、開示情報が精緻化ビジュアル化しつつある。
(三)無償公開される精緻な不動産情報と鑑定評価のリンクが時代の要請である。

 それはまた、貴兄が指摘されてい「不完全・閉鎖的な不動産市場を前提とする不動産鑑定評価に将来性ありや?」という問い掛けに応えるものでしょう。貴兄のご参考になるか、ならぬかはともかくとして、「新スキーム、ネットワーク、GIS」というキーワードでこの件を考えてみます。

一、「新スキーム(取引事例悉皆調査&取引価格情報開示制度)」
 国交省は依然として悉皆調査一次データ(取引登記情報)を開示しようとする様子が見えませんが、一次データの利用価値は高いと思います。幸いにも当県には十年余に及ぶ一次データ(取引登記情報)ストックとその四割にも及ぶ二次データ(取引当事者照会回収結果)ストックがあります。かつては、これら貴重なデータの有効で簡易な活用ツールが得られませんでした。今回はこの貴重な『先人の遺産』を、鮮度の高いうちに活用することをテーマとしませんか。
 今やコンピュータが廉価・高機能化し、地図システムも手軽に利用できます。そこで、これらを利用した「市場資料分析法」という新しい評価手法が提案できないでしょうか。これには、統計やGISの判る不動産鑑定士だけではなく、それらに堪能な学者やエンジニアの協力を得たら如何でしょうか。

 例えば、地元には地域科学部という大学学部がございます、そちらの協力を求めたら如何でしょうか。先方にとっても、得難いデータと僅かではあるが資金が提供されて、研究ができるわけだから悪い話ではないでしょう。さらに、基調講演者やパネリストが確保できます。 (この際に、情報漏洩に関わる細心の注意が払われるべきなのは云うまでもございません。)
もう一つ、このテーマ(不動産取引悉皆調査データを基礎とする価格形成要因市場分析)は、国交省にとっても好ましく興味あるテーマであろうと思います。新スキームデータの然るべき処方による開示が市民に役に立つものであり、その一役を鑑定士が担うとすれば、所管庁の支援も大いに期待できます。つまりは、地元大学地域科学部関係者に「要因データと価格データによる地価形成分析」についての共同研究と基調講演をお願いし、国交省所管課の然るべき方には「価格情報開示の将来像、地価公示デジタル化の将来像」を、GISエンジニアには「ネットワークやGISの未来像」を語っていただけたらと考えるのです。

「GIS」
 不動産鑑定評価にとって地図情報を利用する技術は今や必須であろうと考えます。従来からの紙ベースの地図でなく、デジタル化地図すなわち「GIS:(Geographic Information System):地理情報システム」の十全の活用スキルは今や鑑定士にとって必要欠くべからざるものになっていることに異論は少なかろうと考えます。GISやGPSを駆使して、今、何が可能か、近い将来に何が可能になるかは、鑑定評価の将来を考える上で大きな関心事であろうと思います。
 ミクロ的には個々の不動産に係わる様々な情報をデジタル地図上で把握し分析してゆくことが、近い将来の地価公示や地価調査、固定資産税評価にとって基本的評価条件となるでしょうし、個別の鑑定評価にとっても同様であろうと考えます。今後の問題ではなく、今や既に、必要条件と化しているとも云えましょう。
 マクロ的にみれば、半期、通年あるいは複数年にわたる地価変動の傾向分析、同一需給圏域の地価形成要因分析を行う上でもGISは有効なツールとなるでしょうし、そこで得られた解析結果や地理情報を可能な限り公開してゆくことが、不動産鑑定というものの社会的プレゼンスを高めるであろうし信頼度向上にもつながるであろうと考えます。

「ネットワーク」
 新スキーム、GIS、ネットワーク というキーワードが持つ潜在的な意味は、 地価水準やおおよその地価推移であれば、 取引価格情報開示制度により、鑑定士は不用という世界が 目前に迫っていると申し上げたつもりです。その時に鑑定士は直裁的に市民の役に立たない地価公示で報酬を得て、新スキーム事例調査を行っているということで良いのでしょうか。地価公示が無意味などと申しているのではございません、不動産鑑定評価を取り巻く社会環境の変化が大きいなか、地価公示がアナログ的処理を優先する今のままであってよいのであろうかと申し上げているのです。

 iNetの世界は多くの人間が集まることによって形成される『集合知』を、いとも簡単に共有できるという社会インフラであろうと考えます。 不動産に関わる『集合知』の世界を鑑定業界が主導して構築形成してゆくことが、 社会的サービスを提供することとなり、 鑑定士の存在意義を高めてゆく効果も得られると考えます。 つまり、iNetを介して情報を公開し、iNetを介して広く情報を得てゆく、あるいは情報の精度や量を高めてゆく、いわば「WEB.2.0」的世界を構築してゆくという目標を掲げたら如何なものでしょうか。

追伸1
 賃貸情報に関して云えば、居住用賃貸以外の商業性賃貸事例を如何にして収集し、共有するかということではないでしょうか。しかし、その現状はは狭いギルド的の世界で賃貸情報が交換共有されているのが実態であり、 その枠外に位置する少なからぬ鑑定士達は闇の世界に放置されているにも似ているというのが実情と考えてますが、間違っていましょうか。 未だ閉鎖性が高く、地方にとっては規模も小さい商業賃貸市場を、会員の多数が情報共有する世界へ、容易にもってゆけると私は楽観できません。

 私は鑑定士が鑑定評価や鑑定士の枠に止まっていることが、 現在の停滞を招いている一因とも考えています。 私のコメントがお祭り開催の提案とお考えであれば、少し異なります。 業界の行事が社会性を持つこと、社会の関心を得ることが、 結果として鑑定士のプレゼンスを高めると考えていますが、無理でしょうか。

追伸2
 催事のパブリシティに関しては、こんな風に考えます。
テーマが決定次第にウエブサイトを開設します。サイト開設は前掲のGISエンジニアが協力してくれるでしょう。サイトはHPとブログを併用して、順次(月次毎に、あるいは何かが決まる毎に)、最初はテーマや開催趣旨の告知、次いで日時と場所、さらに基調講演者やパネリストの名簿や略歴、そして準備進捗状況や関連情報の公開といった具合に次第に話題性を高めてゆくのです。

 また催事の注目性やビジュアルといった意味では、「GIS、GPSを利用する地価マップやGPS携帯を利用した事例カード作成」、「地価公示事例カード二枚目のデジタル化作成の実際」、「GoogleMapを利用した地価公示要覧の作成と開示」といった事案のプレゼンテーションが可能でしょう。

『不動産と景気・経済』ブログではFredy氏はこう言ってます。GoogleMap公示要覧は業界では話題になっていませんが、業界外では結構な評価を得ているようです。
『 GOOGLE MAP 版 岐阜県地価公示・地価調査要覧 』を拝見した。
とても親切・丁寧・便利である。今後、更なるバージョンアップがなされるだろう。要注目。今後、地図と統計数字のカップリングでエリアマーケティングがより効果的になるはずだ。営業手法などもこれらのクロス分析でより効果的にアプローチできるようになるだろう。

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by bouen | 2007-12-26 12:04 | 不動産鑑定


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