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08'夏、止揚学園

 冊子止揚103号が届いたのを機会に、旧盆の一日、久し振りに止揚学園を訪ねてきました。



   
 旧盆の期間中、止揚学園では帰省が可能な園生は、実家に帰って父母兄弟姉妹と久し振りの日々を過ごしますが、園生の年齢が進むと共に実家の父母の高齢化も進みます。なかには父母共に亡くなっている園生もいます。そうした様々な事情から帰省できない人たちへの、せめてもの差し入れにと思い、日頃は賑やかな学園がひっそりしている賑やかしにでもなればと思い、西瓜を手土産に訪ねてきました。

 学園では、これも恒例の旧盆期間中の募金活動で、何名かのスタッフの方々は大阪の四天王寺や一心寺で街頭に立たれています。旧盆のお参りに行かれて学園の人たちを見かけられたら、是非とも募金に応じてあげて下さい。

 さて、園生の皆さんが昼寝をされているあいだ、何名かのスタッフの皆さんから色々なお話しを伺いました。お茶請けに琵琶湖の稚鮎甘露煮を頂きながらお話しを伺っていると、時間のたつのがとても早く思えたことです。その折りの話題を記事にします。

 学園では毎年新しいスタッフの方を迎えます。この春からは京都の有名女子大を卒業されたNさんが新人としてスタッフの仲間に加わっていました。その方にまつわる興味深い話です。 彼女は学園の職員募集に応募し、採用試験を受けたのですが、彼女のもとに届いた採用通知を巡る話です。

 学園のリーダー福井達雨先生は、採用内定通知を便せん二枚に手書きで書かれたそうです。大意は「あなたを学園の仲間として喜んでお迎えします。心身に重度の障害がある人たちのために、皆と一緒に歩んで行きましょう。」というものだったそうです。学園のテーマである「ゆっくり歩こうなあ」、「見えないものを大切に」という思いが溢れている手紙だったと思われます。

 福井先生からの直筆の採用通知を受け取った彼女はとても感激して、大学の仲間達に見せたのだそうです。若気からの多少の自慢気もあったのかもしれません。福祉に志す人たちにとって、福井先生は尊敬と憧れの対象です。先生は同志社の出身ですから関西、なかでも京都では知る人ぞ知る著名人です。でも、手紙を見た女学生達のなかには意外な反応があったと云います。

 「何よこれ!!、今時、手書きの採用通知なんて何よ。まともな企業や施設ならきちんと印刷された用紙に印鑑を押した通知が届くものよ。この学園は大丈夫なの、貧乏で遅れているのじゃないの。待遇など大丈夫?」といった言葉が幾人かからは、返ってきたそうです。
 茫猿の訪れた日は福井先生は講演旅行でお留守でしたが、園長の光子先生が仰有るには「時代は変わったのですね。手書きは古くて怪しげに見えるのですね。  福井が一晩かけて心を込めた手紙もダサク見えてしまうようです。」

 前にも記事にしましたが、学園は基本的にパソコンやワープロを使いません。冊子止揚を送る封筒も、寄附金の礼状も今でも手書きです。クリスマスの案内状や冊子止揚を送る封筒の宛名は、スタッフの皆さんが手分けして手書きされます。手書きだからこそ、届け先の相手の顔を思い浮かべながら思いを込めて一字一字書いてゆかれるのです。そんな思いがいつの間にやら通じなくなっているということに改めて驚かされました。思い出せば学園と茫猿のお付き合いは手書きの礼状に驚いたことに始まります。

 でも考え直してみれば、手書きをダサイと見る人もあながち責められません。大学のレポート提出は手書き禁止であり、パソコン作成のレポートをiNetを通じて学部事務室に送ることが求められる時代です。身の回りでは携帯メールが全盛であり、手書きの文はおろか電話さえ稀になっている世相です。そんな時代に育った若者達が手書きに馴染みがなくても不思議はないし、手書きをしたことも、まして下書きしてから清書したレポートなど作成したこともないのだから、手書きの採用通知に違和感を感じたとしてもやむを得ないのかもしれません。

 改めて思わされます。手書きの効用というもの、手書きの良さというものを教え伝えてゆかなければいけないと思います。直筆の手紙は究極のアナログです。デジタルは便利だし、ネット上の例文集を引用すれば誰でもそれなりのものが書けます。でも、誤字があったり、多少稚拙な筆跡でも、手書きアナログは書く人の心が伝わります。直筆の手紙を受け取った経験の無い人には、手書きの嬉しさは判らないのが当然だから、手書きの心を知る年配者こそが、葉書でよいから直筆の手紙を差し上げることがとても大切なのだと思わされます。

 誰に宛てるとも知れないネット掲示板の匿名書き込みが蔓延する時代だからこそ、時代と共に変えてゆかねばならないもがあるのと同時に、変えてはならないものもあるのだし、その心を伝えてゆくのも年配者の務めなのだと思わされた一日でした。

「追記」 お届けした西瓜を見て喜んでいただいた園生のH君が、茫猿に即興で唄ってくれた詩を記します。メモを取ってはいませんので、多少は茫猿の校正も混じっていますけれど。
 西瓜は愛です。
 太陽も、風も、雨も愛です。
 畑は愛で一杯です。

 西瓜は嬉しそうです。
 西瓜を食べる笑顔は愛です。
 西瓜さんを連れてきてくれて、ありがとう。

            『止揚学園  園生H君作』

by bouen | 2008-08-15 15:15 | 止揚学園の人々


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