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晴耕雨鑑

 晴耕雨鑑とは仙台の小野寺氏に教えていただいた言葉である。 晴れたら耕し、雨であれば鑑定評価にいそしむという意味で、晴耕雨読を原典とする彼の造語である。晴れても雨でも現地実査に励み、雨でも晴れても納期の迫った評価書作成に追われるという現役時代に一つの区切りをつけて、いわば第二の鑑定士人生を歩むのだという小野寺氏のある種の気概というか心づもりを表している言葉であり、茫猿もとても好きな言葉である。

 不動産鑑定士というライセンスは、一度交付を受けたら余程のエラーを引き起こさない限り、そのライセンスに有効期限は定められていない。 本人が望む限りにおいて生涯現役ということである。 勿論のこと不動産を取り巻く社会的・経済的環境は日々刻々に変化しているのであるから、日々研鑽を怠りなく務めていなければ、その能力が日毎に劣化してゆくことは云うまでもない。



 それに加えて、鑑定評価業務は現地踏査が必須業務というより、現地実査から始まり現場に終わるとも言えるものであるから、現場に出向く体力が衰えれば如何ともし難いのであるし、自動車の運転ができなくなれば現地実査経費が多額になるだけでなく、見るべきモノが見えなくなるのも当然のことである。 これから、茫猿が書き記すことは少しばかり、いいえ相当にエェ格好を附け過ぎかもしれない、だから割り引いて読んでほしいし、お盆の墓参りでご先祖様の前で思った「茫猿の願望」とでも受け取って貰えば、それで佳いのである。

 或いは先日掲載の同志社創立者:新島襄の檄文に煽られたせいなのかもしれないのである。 まだ感激醒めやらぬ思いだから、新島襄の檄文を再掲してみる。
我が校の門をくヾりたるものは、

政治家になるもよし、宗教家になるもよし、
實業家になるもよし、教育者になるもよし、
文学者になるもよし、
且つ少々角あるも可、奇骨あるも可、
たヾかの優游不断(ユウジュウフダン)にして、安逸を貪り
苟(イヤシ)くも姑息の計を為すが如き、
軟骨漢には決してならぬこと、
これ予の切に望み、
偏(ヒトエ)に希ふ(ネガウ)ところである。


 今年の盆は茫猿にとって例年とはひと味違う感慨を思わされた盆であった。 65歳での一区切りと以前から考えていたが、様々な事情から一年延ばした現役生活であるが、来年二月は晴れて満66歳の緑寿である。 緑壽満願を期して事務所を縮小し自宅に移転すべく、盆の休みを利用して内装やら家具の購入やら細々とした準備を進めたのであるが、シツラエ(設え)も一段落して一応の移転準備が終わってみれば、やはり感慨一塩である。

 移転準備については、そんなに慌てなくとも時期が来たら一気に行えば良かろうという考えが浮かばないわけではないが、でも一気にというのはその後の落差が不安なのである。 徐々に準備を進めることによって、何よりも心の準備を整えておこうというのが本当の気持ちである。

 そうでなくとも「人生五十年、化転のうち」を過ぎること十五年、アラ還もすでに遠く、アラセブンに近づいてくれば、否応なしに終着駅もほのかに見えてくる。 何も自身の終末でなくとも老親ふたりの毎日を見ていれば、否が応でも意識させられるわけであり、青春、朱夏、白秋を過ぎて玄冬が遠くないことを自覚するわけである。

 この玄冬の時期を夕暮れにするか夕映えにするかが肝心なことだと考えて、数年前から65歳を区切りの時と定め、夕映えの日々の準備を少しずつ進めてきたのである。 少しだけ現役で多くは新しい色に染める、いわば輝く黄金の日々にしたいものと欲深く考えていると云えば、なにやら格好良く聞こえようが、実態は加齢その他の事情からやむを得ず一区切りをつけるというのが現実なのである。

 さて、鑑定士は生涯現役と云っても、個人差はあるし、優秀な方でも研鑽を怠れば馬脚を現すこととなろう。 駿馬も老いては駄馬に劣るのである。 今更、若き駿馬と張り合おうとは思うべくもないが、老いた茫猿にはボウエンなりの生き方も過ごし方もあろうと思うのであるし、横丁の小言辛兵衛よし、ロッキングチェアからの繰り言もまたよしと考えている。

 幸いなことに、旅が好きで土地々々の居酒屋が好きで鉄道趣味もあるから、国内だけでもとても生涯には廻りきれないだろう。 瀬戸内の島起こしに些かでもお手伝いができたら佳いし、止揚学園でも何かのお手伝いもできようし、茅庭の草刈り枝払いもある。 鑑定業界のお役に立てることは、もうあまり無かろうが会費を払うのも一つのお手伝いだろう。 このウエブサイトだって続けていることに何かは意味があろうと思っている。 枯れ木も山の賑わいと云うし、茫猿でも他山の石なれば務まるだろう。

 夕映えに輝く何かがあればと考えているところへ畏友A氏が顔を覗かせた。 彼と話しているうちに前期高齢者以上の鑑定士で老鑑クラブを発足させようかと云うことになった。 老鑑クラブになるか老獪クラブになるかは判らないが、現役を引退して名誉会員に納まっている後期高齢鑑定士にも呼びかけて、先ずは昔話に花を咲かせよう。 そして、現役世代の邪魔にならない程度の社会還元ができたら、とても嬉しいことだと思うのである。

 茫猿の終の棲家となるだろう事務所の設え(シツラエ)です。 あとは若干のICT機器を現事務所から運び込み、ロッキングチェアを入れれば移転準備完了です。
 

 陽溜まりに  揺れる椅子一つ  夏がゆく  (茫猿)

 蝉時雨  軒端に風来たり  シェード揚ぐ  (茫猿)
by bouen | 2009-08-24 10:15 | Who’s 茫猿


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