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逆風のなか会館建設に邁進 -2-

《この稿は前号記事より続く》

 不動産価格情報収集体制や公的評価が揺らいでいるというさなか、鑑定協会は不動産鑑定会館建設に邁進しようとしている。 会館建設は昨秋以来水面下で囁かれていた。 少なくとも茫猿にはそのように聞こえていたのであるが、その実態は昨年11月開催の全国士協会会長会議にて基本構想が会長から公表され、昨年12月開催の協会常務理事会で「会館取得検討PT」発足が承認されている。 協会執行部では会館取得日程がスタートしていたのである。
 
 公表された文書では平成21年11月10日開催:第6回全国士協会会長会議にて、会長は鑑定会館取得の本旨及び基本構想に説明したとあるが、鑑定協会が公表する「平成21年11月10日開催:第6回全国士協会会長会議・報告」には、この件は一切ふれられていないのである。

 そして2月12日には会館取得検討PTから答申が会長宛に提出され、昨日開催の常務理事会に答申が上程されるのと並行して会員にも公表されたのである。 常務理事会での答申諾否はまだ不明であるが、会長の並々ならぬ決意や常務理事会が検討をスタートさせたことなどを併せ考えれば、そのスケジュールは既に道半ばに至ったとも言えるのである。

 【会館取得検討答申PDFファイルを開く】




 茫猿は会館建設にも取得にも反対である。 答申を何度読み返しても、今この時点で会館を取得しなければならない理由が理解できないのである。 また、会館取得決議を2011年10月開催予定の連合会設立総会にて得ようと云う答申日程にも疑念を抱いている。

 前号記事で述べたような様々な逆風のなかで、最優先課題あるいは重要課題として「会館建設」を遂行しなければならない理由が、何度考えても理解できないのである。 答申は会館取得または建設の意義として、斯様に述べている。

 答申が掲げる意義の第一は、『公益法人たる新連合会の本部にふさわしい施設の建設』というが、専門職業家団体がその在り様について、形から入るということがあながち否定されるものではないにしても、不動産の所有から賃貸へ《有効利用》を標榜する団体にふさわしいのか、コンクリートからソフトへという時代潮流に逆行するものではないのかと疑念を持つのである。 何よりも「自前の会館を持つことが公益法人にふさわしい」という考えそのものが事大主義であり時代錯誤であると考えるのである。 公益法人という名称が社会的信頼を勝ち得るとする「公益法人移行答申」とも共通する事大主義であり格好主義である。

 まずは、鑑定士協会連合会が「緑化、脱炭素、素材再利用、省エネなどの先導的モデル事業」を実施するにふさわしい組織なのか考え直すべきである。 少なくとも先導的モデルを具現するビルを賃借すれば事足りることではないのか。
 さらに、24時間稼働機能や、データベース保管蓄積機能並びに高度なセキュリテイを追求するという。 相当規模の企業でもデータベース・サーバはデータセンターに委託するのが、コスト的にもセキュリテイ的にも当然と考える時代に、なぜに自前サーバ保有維持を考えるのであろうか。 そのような高機能かつ安全性の高いビルを自前で保有することの経費負担に耐えられる連合会であると云うのであろうか。

 第二に、『連合会移行記念事業であり、47士協会結束のシンボル』であると答申はいうが、記念事業にしては負担が大きく、地方圏域士協会に受益は乏しいのである。 ましてや結束のシンボルなどにはなり得ずにTombstoneともなりかねない。 賃貸ビル居住ではプレゼンスが発揮できないなどというのは、語るに落ちたというべきで見栄以外のなにものでもない。 中身の充実こそが優先されるべきであり、形は自ずと付いてくると考える。

 第三に掲げる『事務所賃料や会議会場費の外部流出抑制』については、キャッシュフローとキャピタルロス・ゲインの比較が曖昧である。 ストックとフローの試算に幾つかの恣意的前提が潜んでいるし、士協会が25年間も無利子で連合会に貸与する必然性は、今後の金利動向が定かでないなか、どこにもありません。 このコスト比較試算は東京のビル事情に詳しい方々に、さらに詳細な検討を委ねたいと思います。

 第四にいう『士協会遊休財産の活用』に至っては、仮に全国の各士協会に遊休余剰資金が存在するとしても、その活用を鑑定協会に指図されるいわれは無いと考えます。 ましてや無利子貸与しなければならない必然性は認められない。 同時に各士協会に存在するかもしれない余剰資金が形成された歴史的経緯は、各士協会ごとに異なるものがあろうと思われます。 各々の単位会がその歴史的背景にも留意しつつ、地域に密着した有効な公益的活用方法を検討すればよいのであり、それが東京に自前ビルを持つことに直結するとは思えません。

 士協会負担額5億5千万円を6000名の会員で割れば、会員一人当たり9万円強の負担額です。 過去に鑑定業界から便益を享受した逃げ切り世代にとっては、当然に負担しなければならない置き土産なのかもしれませんが、逆風のなかに船出する年少世代にとっては決して少なくない負担であろうと思います。
 
 さらに答申はその冒頭に意志決定のあり方として、最終的な意志決定は連合会に委ね、現行組織は前広に(あらかじめ)進めるべきという。 現行の総会は建前的であるにしても、全会員の出席と採決権行使が可能な直接民主制総会である。 それに対して移行が予定される連合会総会は審議中の定款案によれば、代議員総会であり、会員が意見を表明する場も意志を表示する場も与えられていない。

 それらの意味から、2010年6月開催予定の2010年度定例総会、及び来年2011年春に予定される役員改選とその後の現行組織最後の総会はとても重要である。 同時に各都道府県士協会は事態が既成事実化する前に、各々の意向を正しく集約し、鑑定協会理事会審議に反映させるべきと考えるところである。

 前号記事で鑑定協会並びに業界を取り巻く危機的状況について述べましたが、そのような折りに、このような人騒がせな答申を求めること自体が、すでに執行部の危機管理能力の欠如をあからさまにしていると考えますが、読者各位は如何様にお考えなのでしょうか。

 神戸会長は『中央社団として発展的役割を果たす上で、財務の持続的健全化が不可欠であり、このためにも会館を取得し、フローからストックへと内部留保を高めることが最善の方策と考えます。そして新都道府県士協会連合会設立の時が、恒産を後継者に残すことの出来る、当該連合会館取得の絶好のチャンスと受け止めています。』と述べる。

 現在の鑑定協会が目指すべき戦略目標とはいったい何であろうか、ハード的ストックの充実なのだろうか、それともソフト的鑑定評価基盤の充実なのだろうか。 それらの戦略目標に到達するために採用すべき戦術とは一体どのようなものであろうか。 しばらく真剣に考えてみたいものである。
by bouen | 2010-03-03 21:45 | 茫猿の吠える日々


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