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新スキーム、その杞憂と蜘蛛の糸

 9月当初時点において、H19新スキームは全国に拡大される見込みとの情報が流れたが、その詳細が明らかにされた訳ではなかった。最近になってその具体的詳細が徐々に明らかにされつつあり、H19全国展開はどうやら完全展開には至らず部分展開に止まる可能性も高いようである。具体的には県庁所在地等の主要都市に限定しての施行が内定(?)したという情報が流れている。さらに、実施区域拡大はそこで打ち切りであり、H20年度になっても全国全面施行へと拡大されるわけではないようである。



 東京都(区部のみ)、大阪府(大阪市、堺市のみ)、愛知県(名古屋市のみ)を始めとして事例収集に関して新スキームと旧来型スキームが併存するダブルスタンダードが次年度以降も継続しかつ拡大する可能性が高い(?)と見込まれるのである。
 この辺りの状況詳細が判明し、或いは確認できるのは10月中旬以降のようである。何れにしてもH19予算政府原案が決定するまでは確定的なことは何も云えないのであるが、国交省の基本姿勢そのものには当初から大きな変化はないのである。「土地取引価格情報提供事業」主管の立場からすれば実施区域は政令指定都市程度まで拡大すれば十分であり価格情報提供制度の目的は達成されるという姿勢であろう。また「地価公示の精緻化に供する」という立場からすれば公示実施区域までは拡大が望ましいという姿勢だったように聞いている。(公示実施区域までの拡大は、全国全面展開と同意義ではない。)

 杞憂というのは新スキーム全国拡大の前に横たわる障害のことである。この障害の存在は明らかで強固なものであり、最近も政府経済財政諮問会議・骨太の方針」で示された財政赤字縮減目標のことである。国交省予算も財政縮減対象の枠外ではなくマイナスシーリングが予定されている。このことは新スキーム試験施行開始当初から懸念されていたことであり、慢性的財政赤字の中で予算の縮減傾向は継続しており、新スキーム予算を増額すれば何処かでそれに見合うだけの減額対象が必要という「ゼロサム」現象からは逃れられないのである。
  三年近く前の某日某処で茫猿が霞ヶ関筋から伺った話はこういうものであった。「価格情報提供は主要都市圏域だけで十分です、財政事情が厳しい折からそれ以上に拡大する意図も余地もありません。不動産鑑定士が施行範囲の拡大を望むのであれば地価公示の地点数削減で対応せざるを得ないでしょう。」

 さて、そういった客観情勢のもとで鑑定協会はどのような立場に立ち、どのような主張を貫いて行くべきなのであろうか。ことの是非或いは実現性の多寡はこの際脇において、一度考え直してみるのも悪くはないと思うのである。
そのことはそのままに鑑定協会事業の優先順位選択ということに繋がるのである。鑑定協会にしても限られた財政力、人的資源をどのように配分するか、どの事業に優先配分するかが将に問われていると云えるのである。

(土地異動通知データ・一次データの提供)
 一つは、原点に帰ってというか原理原則的に、地価公示精緻化の為に一次データの提供を求めるという主張であろう。 とにもかくにも一次データの入手が最優先課題であり、事後の照会調査は何とかなるのだし、現に過去も現在も様々な方法で入手した一次データを基礎にして照会調査を行っているのである。法務省並びに国交省に対しては、公示・調査の精緻化には欠くべからざる原資料であると強く要請するということである。
 また公示スキームのなかで新スキーム事例調査を引き受けている鑑定協会の立場としても「霞ヶ関にとって必要な範囲の調査」に止まるのではなく、調査を引き受ける「虎ノ門にとっても必要な範囲の調査」を委託して然るべきと、主張すべきと考えるが如何なものであろうか。

 そうでなくとも、(事後に共同利活用できるとはいえ)、鑑定協会は多額の郵送費と過重ともいえる事例調査等役務を負担しているのであり、決して徒手空拳で新スキーム成果を享受しているわけではないのである。極論を言えば、一次データと霞ヶ関添え状の提供があればよいのであり、照会調査は鑑定協会の責任のもとで行い、価格情報データ開示実務も鑑定協会が引き受けると申し入れてもよいのではなかろうか。

(委託事業としての包括受託)
 一つは、新スキーム調査事業をH19年度以降は正式に国交省委託事業として位置付けた上で、仕様変更或いは設計変更を求めて限られた予算枠のなかで実施業務量を拡大するという選択肢を考えられないだろうか。公示地点数の縮減など国交省所管の他の事業予算枠を縮減して関係予算増額という話もないではなかろうが、霞ヶ関としても虎ノ門としても呑み難い話であり現実的ではない。(なお、新スキーム事業が、委託事業であるのかそうでないのかが実は筆者には不明である。試験施行のせいでもあるのか、協会の予算書や事業計画書を読んでも明らかではないのである。)

 いわば、従来は百の予算で百の仕事を引き受けていたものを、百の予算で百二十引き受けようと云うのである。このことは一見すると金銭的、役務的負担増と受け取られがちであるが、現行の執行体制は必ずしも万全ではなく少なからぬ無駄や改善の余地が潜んでいるように見受けられるのであり、鑑定協会への全面委託事業化が実現すれば、経費のスリム化もあながち荒唐無稽な話でもないように思える。
 なお随意契約委託業務であるべき根拠は不動産鑑定士が現場調査を行い、時に土地建物価格を配分し、時に価格形成要因を判定し標準化補正を行うという業務内容は「不動産鑑定士集団の独占的専門業務分野である」という立派な根拠が示せると考えるが如何なものであろうか。

 いずれにしても、地価公示地点数の削減が続き地価調査事業補助額の削減も続いているのである。鑑定協会側としてもいたずらに手を拱いていても得るものは少ないのである。不動産鑑定士としては新スキーム事業が三年間の試行期間を経て本格継続事業化したと云う点をもって多とすべきであり、この事業の持続的拡大のために不動産鑑定士自らがどれだけの財政的負担と役務負担を提供できるかこそが今こそ問われているのであろう。
 鑑定協会の担当上席役員や担当事務局がこの何年来か、頭の下がる尽力を傾注されてきたのは事実である。その御盡力は多とするものであるが、今や総花的事業展開や落ち零れを造らないという迂遠な事業推進には見切りをつけて、優先すべき事業に協会の総力を結集する時期にあると考える。 何よりも不動産鑑定士一人一人が、新スキームの事業目的と事業概要を正確に理解することが求められていると考えます。 
by bouen | 2006-10-01 02:34 | 不動産鑑定


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