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公益法人資格取得は是か非か

 内閣府公益認定等委員会より公表(2008.04.11)された「公益認定等ガイドライン」を一読して、幾つかの疑問が残るのである。地価公示や地価調査並びに相続税評価及び固定資産税評価が公益事業たり得ることに疑念はない。しかし、それら事業の受託方法や業務遂行方法を併せて考えるときに、それら事業を鑑定協会や士協会が行う公益事業と見なすには、いささかの疑念が残るのである。




 すべからく事勿れ主義、事大主義の赴くところの成り行きに任せておけばよかろうに、何故このような疑問を呈するかと云えば、それは梅田望夫氏が云うがごとく、斯界を覆っている変化に対するセンサーの欠如、変化に対応しようとするセンスの無さ、そして変化に積極的に立ち向かおうとするスピリットの喪失を危惧するからである。

梅田望夫氏:私塾のすすめ:あとがきより
『そこに存在するのは、「時代の変化」への鈍感さ、これまでの慣習や価値観を信じる「迷いのなさ」、社会構造が大きく変化することへの想像力の欠如、「未来は創造し得る」という希望の対極にある現実前提の安定志向、昨日と今日とは同じだと決めつける知的怠惰と無気力と諦め、若者に対する「出る杭は打つ」的な接し方、・・・といったものだけ。
これらの組み合わせが実に強固な行動原理となって多くの人々に定着し、現在の日本社会にまかり通る価値観を作り出している。』

一、公益法人資格取得の意味
(1)公益社団法人は税制上の特典が受けられるが、そもそも慢性的赤字体質であり会費値上げを常時検討せざるをえない状態の社団法人が、税制上の特典を受けることなど、およそ考えられない。
(2)税制上の特典を受けることと引き替えに、行政庁の指導監督が強化されたり、会計処理や情報公開に一定の水準を求められるが、それは享受する特典と引き合うものであろうか。
(3)公益社団法人資格を取得すれば社会的信頼性が高まると云うが、それは単なる自己満足に過ぎはしないのか。社会の信頼というものは、「如何なる事業を、如何様にして行ったか、そして如何なる結果を生じたか」によって、得られるものであろうと考える。
(4)公益法人資格の認定を受けることを所与とする風潮が斯界に蔓延しているが、公益法人資格の認定を受けることにより様々な規制下におかれるよりも、一般社団法人として自由な活動を行うという選択肢を検討する余地はないのであろうか。

二、公益社団法人の在り様
(1)そもそも、鑑定業者を会員として組織し、その所属会員に対して地価公示や地価調査業務の配分を行うような法人が、法が本来的にその目的とする公益社団法人なのであろうか。
公益法人認定法第5条によれば、公益認定の要件は、公益目的事業支出が全支出の50%以上であることなど17項目である。「公益目的事業」の定義は、同法別表の23事業に該当し、なおかつ、不特定多数の者の利益の増進に寄与するものとある。
地価公示や固定資産税評価等は、そこに規定する「十七 国土の利用、整備又は保全を目的とする事業 並びに、十八 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業」に該当すると考えられるものであり、事業区分としては「(6) 調査、資料収集」に該当すると考えられる。
 そこで、A.公益目的事業か否かについては該当するものと考えられるが、B.事業区分ごとのチェックポイントに照応するか否かが多少疑問である。③ 当該調査、資料収集に専門家が適切に関与しているかについては、不動産鑑定士が関与するのであり疑問の余地はない。しかし、④ 当該法人が外部に委託する場合、そのすべてを他者に行わせること(いわゆる丸投げ)はないかについて、この場合に会員である鑑定業者に委託することは、内部委託なのか外部委託なのか疑念が残るのである。
 地価公示並びに地価調査は不動産鑑定士に調査委託するものであるが、事実上不動産鑑定業者に所属しない不動産鑑定士には委託されないのである。また、相続税評価並びに固定資産税評価は鑑定業者に委託されるのである。

三、鑑定協会や士協会の主な事業である地価公示や地価調査は公益事業認定の対象たり得るか。
 地価公示をはじめ、地価調査、相続税標準地評価、固定資産税標準宅地評価が公益事業である点に関して疑いの余地はない。しかし、それらの業務包括委託契約なるものが公益事業なのかに関しては、いささかの疑念が残るのである。
(1)委託収入の90%強は所属会員である不動産鑑定業者に業務配付委託するものであるところの「都道府県から業務包括委託契約により受託する地価調査事業」は公益事業であろうか。
(2)いずれも業務包括的取纏受託契約である地価公示受託(委託者:国土交通省)、地価調査受託(委託者:都道府県)、相続税標準地評価受託(委託者:国税庁)、固定資産税評価受託(委託者:市町村)が公益事業であるとするならば、個々の鑑定業者が市町村より直接に固定資産税評価業務を受託する場合との差異をどこに求めたらよいのであろうか。
(3)また、地価調査業務や固定資産税標宅評価業務は指命競争入札によって業務受託する場合もあるが、公益事業業務委託契約に際して指名競争入札はなじむものなのか。
(4)さらに、H21地価公示よりは「地価公示業務遂行に関してREA-NETの本格的運用」が計画されていると聞くのである。業務にVPN利用を義務づけることは、一種の参入障壁となりかねないものである。セキュリテイ保持の観点からREA-NET活用は望まれるところではあるが、法が示す公益事業の趣旨からすると疑念が残るのである。

公益認定等ガイドライン】(2008.04.11:内閣府公益認定等委員会)
その末尾に掲載される「参考:公益目的事業のチェックポイントについて

第1 公益目的事業のチェックポイントの性格
認定法第2条第4号に定める公益目的事業の定義は、A(学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業)であって、B(不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの)という構成をとっており、公益目的事業か否かについては、AであってBとなっているかを判断することとなる。このうちAの部分については認定法の別表各号で明示しているため、Bの部分、すなわち「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点として、第2の1.に公益目的事業のチェックポイントを掲げる。

『A項について』公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第二条別表
十七 国土の利用、整備又は保全を目的とする事業
十八 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業

『B項について』
1.事業区分ごとの公益目的事業のチェックポイント
(6) 調査、資料収集
ここでいう「調査、資料収集」は、あるテーマを定めて、法人内外の資源を活用して、意識や実態等についての調査、資料収集又は当該調査の結果その他の必要な情報を基に分析を行う事業のことである。法人の事業名としては、調査、統計、資料収集等としている。
公益目的事業としての「調査、資料収集」は、原則として、その結果が社会に活用されることを趣旨としている必要がある。したがって、結果の取扱いに着目して事実認定するのが有効であると考えられる。このため、公益目的事業のチェックポイントは以下のとおり。
① 当該調査、資料収集が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
② 当該調査、資料収集の名称や結果を公表していなかったり、内容についての外部からの問合せに答えないということはないか。
(注)ただし、受託の場合、個人情報保護、機密性その他の委託元のやむを得ない理由で公表できない場合があり、この場合は、当該理由の合理性について個別にその妥当性を判断する。
③ 当該調査、資料収集に専門家が適切に関与しているか。
④ 当該法人が外部に委託する場合、そのすべてを他者に行わせること(いわゆる丸投げ)はないか。
by bouen | 2008-05-20 10:19 | 茫猿の吠える日々


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