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二兆円と優先度

 昨今の新聞紙上を賑わしている見出しに「二兆円」がある。
一つは、国民一人あたり一律12,000円支給という定額給付金の総額二兆円である。
一つは、政府が12/06発表した緊急雇用対策費の総額二兆円である。
一つは、国民年金の国庫負担率/1/3から1/2引き上げ財源額二兆円である。
それぞれに若干の金額差はあるが、いずれも二兆円前後の金額でなのある。



 定額給付金支給は麻生総理の提案であるが、政府与党内でも賛否が分かれているし、年末どころか年度末にも間に合うかどうか怪しくなっている施策である。 減税のように持続する施策でなく、効果も定かでない国民を愚弄する一時的な人気取り施策である。 発想者のお人柄がしれると言ってよい施策でもある。

 緊急雇用対策費総額についても同様のことがいえる。 例えば派遣社員を正社員にすれば一時金支給、自治体が一時的就労機会を創出、内定取り消し学生を雇用すれば一時金支給などである。 制度の根幹に手を付けることのない小手先、止血止めにもなり得ない施策ばかりである。

 国民年金国庫負担率引き上げは2009年度までに実施と法律で定められているにもかかわらず、総理の発言が2009年度内とか四月実施とかぶれているのである。 様々な事件から年金に対する国民の信頼が大きく揺らいでいる時に、法定の施策すら実施が危ぶまれているとしたら、国民が年金を信頼するわけがない。

 二兆円というバラマキ財源が存在するのであれば、それを何に使えばよいのかという優先順位が全くもって見えないのである。 人気取りにばらまく定額給付なのか、派遣切りを止めるという止血対策なのか、国民年金への信頼回復優先なのかが見えないということである。

 定額給付の愚かさは、「踏襲と浮舟」ほか何度も記事にしてきたとおりである。 愚策は止めるに如かずであるが、仮に行うとしても給付の方法も対象も抜本的に改めるべきであろう。

 緊急雇用対策は応急処置も必要だが、応急措置では解決しない問題である。 ことは専門的職業にのみ許されるべき派遣という就労形態を港湾荷役など一般労働にまで拡大してしまった罪にある。 派遣労働肯定論者は経営者側論者にほぼ限定されている。主なところを挙げれば、奥田碩(元経団連会長)、御手洗冨士夫(経団連会長)、宮内義彦(元規制改革・民間開放推進会議議長)、奥谷禮子(労働政策審議会委員、人材派遣会社ザ・アール社長)、等々である。 彼らは一様に労働者にとって就労機会の多様化というが、その本音は雇用者側の雇用労働条件規制緩和なのである。 営々として勝ち取ってきた労働三法の「グローバリズムとか市場競争条件緩和などという」美名・目くらましに彩られた骨抜きに他ならないのである。
 緊急雇用対策として真っ先に行わなければならないのは「派遣労働の規制緩和廃止」であり、「最低賃金の引き上げ」であり、「雇用保険や年金加入の義務化」なのである。

 経営者側は、世界市場での競争に勝ち抜くためには、「日本の労働条件の世界標準化」を言うが、そうではなくて世界の労働条件をせめて日本並みに引き上げるための「フェアトレード精神」の普遍化なのである。 つまり本末転倒した議論や施策を放置したままに一時的措置をどのように講じても事態は良くならず、かえって悪化させるという歴史の教訓に学ぶべきである。

 国民年金の国庫負担率引き上げについての、総理答弁のブレはブレにもならない。 年金事情を認識していないことに帰因すると思われる。 年金には様々な問題が噴き出しているけれど、そのような事態の中で最優先課題は総理が政府が確固たる方針を示して、年金に対する国民の信頼感と安心感を回復することにあるはずである。

 政治とは様々な立場の国民から様々な施策要求が求められるときに、様々な施策要求の優先度を的確に公平に判断して道筋を付けることにあると考える。 優先度がブレたり見えない政治は国民の信頼を失わせるものであると気づかない政治家は政治家の名に値しないのである。 今は未曾有の危機と言うけれど、未曾有の状況認識が本当にあれば、限られた財源の最適支出を必死に模索する時であろう。 解散総選挙で自党派の勝ちのみを意識したり、優先度すらも認識できない政治家は「未曾有」を口にするすら烏滸がましいと言わなければならない。

 ところで、解散総選挙を先送りしたはいいが、麻生総理は「三年後の消費税率引き上げ」という広言を、これからどうするのであろうか。 総選挙を先送りすればするほど、三年後が二年後になり一年後になる。 つまり、「この選挙で勝てば消費税率を引き上げます。」ということになるわけだが、果たしてどうする。 それでも選挙に勝てるだけの骨太の施策を打ち出せる自信と智慧があるのだろうか。

『追記』
 読者諸兄姉は零細事務所の主宰者が偉そうなことを言うと思われるかもしれないが、茫猿は前歴の法人事務所時代の今から35年も前に、事務所に社会保険と雇用保険と厚生年金を導入した経緯がある。 当時、そのような提案を師匠にしたら「経費増だね」と否定されたが、「人材確保の手段です。」と認めて頂いた記憶がある。 以来35年、法人事務所を解消する迄の間、派遣職員採用や雇用形態の自由化(厚生年金から国民年金へ移行)など、数ヶ月も自らの給料を預かり金扱いするような、経営の苦しいときは常に誘惑に駆られたものである。 でも労働条件維持は必要諸経費と割り切ってきたのである。そして、個人事務所に移行した今、その持続は自らにとっても悪くなかった選択だったと思えるのである。
by bouen | 2008-12-06 12:30 | 茫猿の吠える日々


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