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漏洩防止悲喜劇

 9月に入って、平成18年地価公示業務が全国的に始まりました。
本年度地価公示業務はいわゆる新スキーム:取引価格情報開示制度試験施行の初年度でもありますから、都市圏では何かと大変な様相です。
 試験施行対象区域以外の地域でも、地価公示業務の一環として或いは並行して取引価格情報調査が様々な手法で行われている訳ですが、今年度は多くの問題が生じつつあるようです。

・一つは、取引価格情報調査のネタ元探しです。
 何処から取引原始情報を入手したのかという問い合わせが多くなっています。
これは個人情報保護法施行が大きく影響しているのでしょう。
同時に、取引当事者も調査へ協力しようとする姿勢が薄れているようです。
これは調査回収率の低下として顕著に現れているようです。
 取引価格調査の円滑な実施が困難になり、的確且つ豊富な事例が得難くなってゆくことは地価公示評価の精度に直結する問題であり、鑑定士としても鑑定協会としても等閑(なおざり)にはできません。
しかし茫猿の見るところ、相も変わらず、業界も協会も反応は鈍い。

・もう一つは、重要なことですが、どこか喜劇性がみえる話です。
 個人情報保護法施行を契機として、国土交通省が提示する地価公示業務仕様書が大きく変わりました。それは前年仕様書と対比するとよく判ります。




 国交省「平成18年地価公示仕様書」においては「FD搭載データの暗号化措置」が新たに追加されました。
 コンピュータによる各書式、各調書及び各資料について磁気媒体で授受を行う場合には、監督職員の指示に従い、暗号化等による情報漏洩防止策を講じること、という訳です。
(磁気媒体:今や官公庁用語であり、FD、MO、CD等の電磁記録可能媒体いう)
(監督職員:国交省所管課)

 「平成17年地価公示仕様書」においては、以下のとおりでした。
 国交省は、コンピュータによる各資料等作成を指示する他には、納品成果物にFDの使用を指示するのみでした。
さらに、その他留意事項で、地価公示法第24条(守秘義務)の規定により、機密の保持、諸資料保管の注意義務を示し、情報の漏洩や資料紛失なきようにと注意喚起していました。
 つまり、平成17年公示までは調書や成果物の納品に際しては、FD利用を指示しましたが、暗号化等の携帯可能メデイアに必要な安全管理措置は求めていませんでした。今年度からは暗号化措置を求めると同時に、暗号化ソフトが配布されました。

 MyShelterという暗号化ソフトなのですが、届けられた暗号化データを見たら笑っちゃいます。どういう訳か、市区町村データまでもが暗号化されているのです。評価員データにしても会員録で開示されているデータだし、前年データといっても官報公示データでしょうに、なぜ暗号化するのか判らない。
唯一、暗号化の意味が認められるのは、公示評価員が暗号化・復号化処理に習熟するための練習作業用データとしてであろうか。それにしてもご親切様なことで。

 何もかも暗号化して配布したことが悪いのではなくて、「各調書及び各資料について磁気媒体で授受を行う場合には」と、全てを網羅して暗号化を指示した仕様書のセイなのでしょうが。
 公示評価員の守秘義務は制度創設以来継続するものであり、去年と今年の相違は個人情報保護法全面施行によるものなのでしょうに。

 この件について、茫猿は05.04.07記事で、鑑定協会のガイドライン改竄事件を取り上げて注意喚起したことです。
【茫猿遠吠:地価公示と法令遵守:05.04.07】 H17.1.17版「鑑定評価業務に係わるガイドライン」では、その58頁で「(7)個人データの送受信システムの徹底…(例)各士協会、会員間で行う土地取引データ等の送受信には、FD、CD等は利用しない。」と記述されていますが、鑑定協会サイトに開示されているH17.1.18版では削除されています。

 笑っちゃいます。変化を拒む誰かさん達が、
デジタル化とかDB化が何をもたらすかを理解できない誰かさん達が、
「専門家の意見を入れて作成した所管委員会原案」を改竄した訳ですから。
ただ、無知なるが故に、ただ、変化を恐れるが故に、
そして、この国交省地価公示仕様書の変化を受けても、
未だガイドラインの改訂を行うとしない怠慢さを指摘しておきます。

 笑えないのです。悲劇が伴うかもしれませんから。
どういうことかと云いますと、磁気媒体の暗号化による安全管理措置、
その他注意喚起による地価公示の安全管理措置は遅滞なく行われるでしょう。
 しかし、公示業務その後において、資料の管理業務・閲覧業務等における安全管理措置は万全かと問われれば、其処はお寒い状況にあるのでしょう。
再複写可能な紙媒体による資料の流通は際限がなく行われており、これに対する業界団体の関心は未だに低いままと云わざるを得ません。この紙情報氾濫状況を放置しておくその先に何が待っているのかと考えれば、悲劇も予感するのです。

 何が申し上げたいかと云えば、専門職業家としての姿勢・使命感です。
ガイドラインとかコンプライアンスとか、様々な局面において常に社会をリードしてゆく使命感を求めるのは酷であるとしても、行政の指導待ち、指示待ち姿勢だけは何とかならないでしょうか。 せめて、行政に企画提案を行い、行政と並行し時にリードしてゆく、そんな姿勢を願うのは無い物ねだりが過ぎることでしょうか。

 以前にも記事にしたことですが、安全管理を考える上で、避けて通れないことは、「事故は起きるという前提条件付きで考えること。」であろうと思います。その上で、
・事故の範囲を小さくするべく努力する。(地理的範囲・時系列的範囲の縮小)
・常に情報漏洩への注意が喚起されるシステム構築
・不注意事故が避けられるシステム構築
・それでも便利さの追求と安全性追求は二律背反的命題である点に留意する。
 このような意識が、我々鑑定士自身にあるか否かが問われている。
 茫猿は、常にそのような観点からもの申し上げているのです。
by bouen | 2005-09-11 07:23 | 不動産鑑定


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